ソンスドンに住んでいた頃、ちょうど新型コロナウイルスが流行し、韓国では小さい子もマスク着用は当たり前、人との接触はできる限り避けるといった生活が強いられていました。
当時まだ1歳児だったすーは言い聞かせてもマスク着用は5分が限度で、すぐに引っ張ってマスクを外してしまうので、私はできるだけ人のいない時間帯、人気のない公園を選んですーを遊びに連れ出していました。
ちょうどソンスドンで住んでいた場所から徒歩3分程の場所に新しいオフィスビルが並んでおり、その目の前に小さな公園がありました。午前中はオフィスで働く人ばかりで目の前の公園で小さな子を遊ばせる人は殆どいなかったので、その公園は私たちの秘密基地のようになりました。
しかし、私たち以外にもう一人、毎日その公園へやってくるおばあちゃんがいました。
公園掃除のおばあちゃんです。
おばあちゃんはコロナ禍とはいえ、やはり小さい子がいれば構いたくなるのでしょう。いつも私とすーが遊んでいると話しかけに来てくれました。
私は韓国語がよくわからなくても、誰かに話しかけてもらうのはとても嬉しかったので、おばあちゃんと会ってちょっとした会話を交わすのが楽しみでもありました。
おばあちゃんには遠くに住んでいる息子さんとお孫さんがいて、お孫さんはすーと同じくらいの歳だとか。お孫さんの動画や写真も見せてくれました。
そのおばあちゃんと顔見知りになったある日、おばあちゃんがおもむろに鞄から袋を取り出して、中に入っていたヤクルトを、「これ、あげるよ。さっき買ったばかりだからまだ冷たいよ。飲みな。」と言って渡してくれたんです。
もちろんすーは大喜びで早速その場で飲みたいというので、ありがたく飲ませていただき、私もご厚意をいただきました。
知らない人にもらったものを子どもに飲ませるのはどうかとも思ったのですが、道路のすぐそばにヤクルトレディーさんがいたこともあり、実際ヤクルトも冷たかったし、何よりそのおばあちゃんがもう知らない人ではなかったので信用していただきました。(そういえば韓国にもヤクルトレディーさん、いるんですよ!)
その日からおばあちゃんはすーを見るとヤクルトレディーさんのところに行ってヤクルトを買ってくれるようになり、私は申し訳ないなぁと思いながらも、おばあちゃんの気持ちをありがたく受け取っていました。
縁もゆかりもないところで子育てをしていた最中、尚且つコロナ規制中、こうやって人の心のぬくもりを感じられたことがどれほど私の助けになったことか。
あのおばあちゃんの名前も知らないけれど、おばあちゃんにしてもらったことは私の心にずっと残り続けるだろうなと思います。現にあれから5年程経つけれど、あの時の嬉しかった気持ちは今もはっきり思い出せます。
韓国人とか日本人とか関係なく、人が人を想う気持ちが人を救ったり元気づけたりするんですよね。
私もいつか、ああいうちょっとおせっかいなおばあちゃんになりたいなと思うのでした。
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